山梨県考古学協会2005年度研究集会「牧と考古学−馬をめぐる諸問題−」2日目

随分時間があいてしまいましたが、2日目の感想です。


本日の報告は主に近世の牧についての報告。


1本目は富里市教委の吉林さんによる、近世牧関連遺構の発掘調査例の報告。
色々と構造などが紹介され、概観することが出来ました。
まだ緒に付いたばかりで、考古学的調査方法が確立されていないとおっしゃってましたが、
それはたしかにその通りかもしれないと思います。
ただこれは、地域的な考古学的調査水準の格差にも起因しているような気が…。
原因は一つではないはずのような気がします。
それから、具体的な事例がひたすら列挙されたので、聞いている方はちょっと辛かったです。
もうすこしポイントを絞るとか重要度のランク付けをしてくれると良かったのですが…。


2本目は歴博の久留島先生による近世牧の存在と地域社会との関わりについての発表。
近世の牧をとりまく人々と彼らの活動、
また、牧と地域開発との関係についての発表でした。
僕自身は近世史については全くの素人でしたが、
発表内容は非常に面白いものでした。
地域の人々が牧という存在と関わることによって、その地での自分達の立場を良くしていこうと画策していたこと、
また、地域の開発(広義の新田開発)が行われていく中で、
むしろ牧という存在が顕在化し、その領域が確定されていったというお話。
話の筋道がしっかりしていた分、門外漢でも聞いていてよく理解することが出来ました。


3本目は東北大学名誉教の入間田先生による中世東北の牧についての報告。
中世の牧はまだ古代の牧との関連で捉えやすい存在なのかなぁと思いました。
あまり資料は多くないものの、それでも伝領関係の資料などで具体的な内容が分かる事例が多く、
興味深く聞くことが出来ました。
絵図なども使って、具体的な現地比定なども行われており、
あとは考古学的な調査が進めばさらに研究が進む予感を感じました。
ちょっと驚いたのは、レジュメが1枚と少し(2枚目は参考文献)という少なさ!
でも要点はついており、さすがだなぁと感嘆してしまいました。
やたらと長いレジュメをつくりゃいいってもんじゃないってことですね。


他にも紙上参加で、山梨県埋文センターの末木さんが
馬骨出土遺跡・馬具出土古墳の分布などから
考古学的に牧野存在や馬飼集団に迫れないかという試みを行っていて、
こちらも大変興味深く読ませてもらいました。
氏族分布の復原なども試みており、現在僕が取り組んでいる研究スタイルに非常に近い内容だったので、
大変参考になりました。
ただ、古墳の消長から首長グループやその移動を見る、といった従来の考え方は
オーソドックスではあるかもしれませんが、
地域をとらえる視点という意味では、
そろそろ次の段階に入っても良いのではないかと思いました。
(かといって何か良い代替案がすぐに挙げられるわけでもないのですが…。)
また、ヤマトタケル伝承をあまり高く評価する姿勢はいかがなものかなぁと少し思いました。
山梨県内では一般的な理解なのでしょうか?
あまり踏み込むのは危険なような気がするのですが…。


午後からの討議は、山梨大学大隅先生の舵取りが見事でした!
僕がなんとなく知りたいなぁと思っていたことは大方聞いて、議論してくださいました。
前日の2次会でだいぶ先生とお話出来たから、その成果でしょうか?
逆に考古学のほうの議論は、素人目に聞いていてあまり議論が深化していないような気がしました。
結局、色々な事例には触れるんですが、それ以上のことに進まない、というか。
やはり討論をする以上は、各地の事例について個々にコメントしてもらうのではなくて、
ある程度勇気を持って、解釈に踏み込んだほうが議論が深まるような気がします。
その場合は、やはりかなりきちんとしたシナリオの準備が欠かせないかと。
すこし危険な気もしますが、せっかく何時間も議論する時間を取るのであれば、
「あそこにはこんなモノがあって、こちらではこんなモノが出ていますねー」
で終わるのではなくて、
「古代の牧とはどういったものであって、それは考古学的にはこのように解釈でき、
またこのように捉えられるのである」
という、一応の結論は欲しかったような気がします。
今回のシンポジウムの成果というかたちで。
もちろんその成果は「今回の」モノであって、
今後調査や研究が進んで行く過程で、その結論が覆ることもあるかもしれませんが、
それは恐れても仕方のないこと。
現状での各研究者の認識をお互いに知る、という場になれば良かったなぁと思いました。


相変わらず辛口な感想になってしまいました。
単に僕の理解が足りなかっただけの可能性もあって、
ここまで書いてしまうのは正直ちょっとコワイのですが、
でもそこに踏み込まないで書くと、
表面的なことをお伝えして、ただ良いところを挙げるだけで終わってしまいそうだったので、
ちょっと辛口にしてみました。
僕自身の理解の助けと復習のためにもなりますし。


あまり多くの方が見ていないことを祈ります…。