埼玉考古学会50周年記念シンポジウム『古代武蔵国の須恵器流通と地域社会』

先日お知らせしましたシンポジウム、遅くなりましたが、簡単に感じたことなど。

まずは全体の発表を通して…

具体的な事例報告やデータの提示は、大変有益な情報でした。
今後当該地域を考えていくうえで色々と参考になりそうです。
ただ発表者によって質にばらつきがあったのが少し残念でした。
まぁこれはどんなシンポジウムでも言えることですが。
あと、やっぱり発表者のプレゼン能力は、聞く側にとっても重要だと思いました。
非常に有益なこと、重要なことを発表しているのに、
提示の仕方や発表姿勢・態度が悪くて要領を得ない内容になってしまっている発表が多々ありました。
非常にもったいないと思います。
研究内容を如何にうまく表現するかも研究者の素質の一つでしょう(自分で自分の首を絞めていますが…。)

個人的に興味を持ったこと

最初の吉岡先生の記念講演や渡辺さんの発表内容の中でも再三取り上げられ、
今回のシンポジウムのテーマの一つにもなっていたと思われる、
「須恵器の生産・流通・消費の各レベルでの人々の具体像」については、
色々な意見、意欲的な意見があり、大変勉強になりましたが、
結論としては、あまり具体的には描き出されなかったような気がしました。
少なくとも僕自身は聞いていて具体的なイメージは掴めませんでした。
これは単に僕の理解力が低いからかもしれませんが。


今回は7世紀以降が話題の中心だったため、同時代資料としての文字資料がある分、
それらが量的に不十分であるにもかかわらず、そちらからの解釈で一応の納得をしてしまっている感がありました。
もっと、考古学から主体者を描き出しても良いような気がしましたが…。
渡辺さんの「居宅交易」というのも、今ひとつ具体的なイメージが掴みきれませんでした。
おっしゃりたいことはある程度分かったのですが…。


今回は話題の中心にならなかった古墳時代の須恵器であれば、
あまり文献史料に頼ることが出来ない分、もっと色々なアプローチでその「流通」の実態に迫ろうという研究が出てきたのかもしれないなぁと思いました。


例えば、土器製作の側面ではこれまで数多くの民族誌資料が用いられてきましたが、
土器流通の実態を推測するために民族学的成果を援用してみたら…とか(既にそういう研究があればぜひご教示下さい)。
前近代(的)社会における土器流通事例を見ることで、日本列島の須恵器流通にもフィードバックできるモノがあるんじゃないかな、と。
他にも、西アジア(に限りませんが)の初期国家における土器流通とかの研究はないのでしょうか?
そういう事例があればそれと比較してみるとか。
とりあえず日本列島の中だけの話でモデルを組み立てようとしても、
なかなか限界がある、というか頭打ちになるというか…。
現状で行き着くところまで来てしまっているような気がするんですけど…。
(もちろんそれは日本考古学の精緻さゆえに到達できるところまで達っしてしまっているわけで、誇るべきことなのでしょうが…。)
閉塞感を感じます。


もちろん、日本列島の古墳時代における陶邑産須恵器は非常に特殊な存在で、
単純に比較するのは難しいのかもしれませんが、
そうであるがゆえに列島内部だけで話を組み立てようとしても、
「特殊だから」ということで話があまり前に進まないような気がします。


ともかくも、僕個人は律令期に興味の中心がありますので、
端的には須恵器生産の主体(生産の原資拠出者や指導者)が誰だったのかや、
生産資源の起源、土地・資源利用の許可構造などなど色々と知りたいことはあります。
たとえば単純なところでは「須恵器生産を主導したのは『郡司(官)』なのかどうか?」といった問題など。
果たして律令体制下における須恵器生産は公的生産なのでしょうか民間に主体のある生産なのでしょうか?(そもそも律令体制下において現代的な用語である「公(官)」や「民・民間」といった用語が適当かどうかについてはとりあえずおいておくとして…。)
これは流通の主体・介在者に関しても、です。


これらについては吉岡先生や渡辺さんも色々と具体的な考えを発表してくださいました。
また、シンポジウムの後の席で、発表者のお一人の佐々木さんともかなり色々お話しさせていただきました。


もちろん、皆さんのお話を聞いて、いずれにしろ一筋縄ではいかない、両側面を持っている、という点は改めて強く認識しましたが…うーん、やはりイメージが…。


僕個人としては、少なくとも大規模な生産を行い、他国にまでその流通圏を持つような須恵器生産・流通に関しては、
土地(入会地・公有地)や資源(燃料・原料など)の利用を考えると、
「民間」によるものでは無かったような気がしています。

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上記のことが少しずつ分かってくると、地域社会の色々なことが分かってくるので、
僕が個人的に興味を持っているテーマの分析にも大変有益な情報になります。
僕自身もこれを機会に一度今までの議論を自分なりに整理して、
具体的なイメージや意見を持てるように努力していきたいなぁと思いました。